ぼくたち、わたしたちの未来、勉強中です!

著作権保護のため、ブログ上の記事には図や写真が含まれていません。図と写真が入ったオリジナルの記事は、PDF文書でご覧いただけます。
PDF版「鶴見川の魅力と暴れ川の過去」

皆さんがサイクリングやウォーキング、電車からきっと見たことのある『鶴見川』。
今回はこの川の魅力と暴れ川の過去をご紹介します。

1. 川の用語集

◯右岸・左岸

「左岸のサイクリングロードは・・・」なんて言いますが、川の左右はどうやって決められているのでしょうか?正解は、川の上流から下流を見た時、川の右側の岸を右岸、左側の岸を左岸というのです。

◯流域

流域とは、降った雨が鶴見川に流れ込む地域のことです。専門的に言うと、分水嶺によって区切られた地域のことです。日本の国土は必ずどこかの川の流域に属しています。流域面積とは、その面積のことです。

◯一級河川

河川の管理は、河川法と言う法律で区間を決めて管理することになっています。
河川法では、河川法の適用を受ける河川を一級河川と二級河川に区分し、それぞれ河川を管理する者(河川管理者といいます)を決めています。

一級河川は、国土保全・国民経済上特に重要な水系の河川で、国土交通大臣が管理するものです。二級河川はそれ以外の水系の河川で、都道府県知事が管理するものです。一級河川の管理は国土交通大臣が行いますが、国土交通大臣が指定する区間(これを指定区間と呼びます)の管理の一部は都道府県知事が行います。二級河川の管理は都道府県知事が行います。

さらに、一級河川・二級河川以外の河川で市町村長が指定したものを準用河川といい、市町村長が管理し、二級河川に関する規定が準用されます。

2. 鶴見川ってどんな川?

①基本情報

水系 鶴見川
種別 一級河川
全長 42.5km
(フルマラソンより少し長い)
流域 東京都町田市・稲城市
神奈川県横浜市青葉区・緑区・都筑区・港北区・鶴見区
川崎市幸区
流域面積 235km²
(大阪府大阪市と同じくらい)
流域内人口 約188万人
(北海道札幌市と同じくらい)
流域内
人口密度
約8000人
(愛知県名古屋市より多い)
水源標高 170m
水源 東京都町田市小山田
鶴見川源流の泉
河口(合流先) 横浜市鶴見区から東京湾へ

②鶴見川流域はバクの形?

鶴見川流域は、バクの形です。

(図1) 鶴見川流域図〈京浜河川事務所HPより〉
(図2) 鶴見川はバクの形です〈著者撮影〉

ちょっと息抜き①

鶴見川は、流域の発達も見てきました。
~鶴見川をまたぐ電車たちⅠ~
鶴見川のサイクリングロードを走っていると、たくさんの電車を見ることができます。

1. 京浜急行本線 鶴見市場~京急鶴見間
(写真1) 京急 2100形〈ウィキペディア「京急2100形電車」Linearcity提供〉
泉岳寺~三崎口 1901(明治34)年開業。都営浅草線・京成線・北総線と直通運転。
2100形と新1000形は搭載しているモーターに手を加えて、発車時に電子楽器のような音階を奏でるようにしました。乗るときにはいつも癒されています。

2. JR東海道線 川崎~横浜間
(写真2) 東海道線 E233系〈首都圏Express 提供〉
東京~熱海 1890(明治23)年開業。
東海道本線の中でJR東日本が営業する東京駅~熱海駅のことを指します。東名京阪神を結ぶ日本の大動脈です。

③鶴見川流域の変化

・流域の市街化

昭和33年当時の鶴見川流域はそのほとんどが田畑や森林で、市街地率はわずか10%。その後、東名高速道路や東海道新幹線、JR線等の道路網・鉄道網が発達し始めると、同時にその率は2倍3倍に跳ね上がり、平成15年には流域の市街地率は85%にもなりました。

・45年間で人口が約140万人増加!

流域内の人口の変化を見てみよう。昭和33年に約45万人だった人口が、平成15年には約188万人に達し、45年間で約140万人以上も増加しています。
流域内の人口密度は全国の109水系の一級河川で1位の8000人/km²にもなっています。

・環境が変化すると、どうなる?

○保水・遊水機能が低下する
森林や田畑は、降った雨を地中へ浸透させ、ゆっくり時間をかけて地下へと運ぶ、『保水機能』というものを持っています。
また、川沿いの田畑やため池には、雨水を一時的にためておく『遊水機能』もあります。
ところが市街化が進み、こうした森林や田畑、ため池などがアスファルトやコンクリートなどでおおわれてしまうと、雨水は地表を伝って一気に川に流れ込み、増水して氾濫の危険性が高まってしまうのです。

(図4) 開発前
雨水の大半は地中に浸透したり、水田のため池に貯められ、川への流入が抑えられる。

(図5) 開発後
市街地化によって森林や田畑、ため池などがアスファルトやコンクリートでおおわれると雨水が一気に川に流れ込む。

〈図4, 5共に「バクさんが案内する鶴見川流域BOOK」より〉

○洪水到着時間が短くなる

降雨ピーク時の時間差を見ると、流域未開発時までは10時間位だったのが、平成2年には2時間になっています。これからも、雨水排水時の影響などで鶴見川への流水量が増えれば、洪水発生時間はもっと短くなるかもしれません。
都市部で時間100mmを超える降雨が増加しています。

ちょっと息抜き②
~鶴見川をまたぐ電車たちⅡ~

3. JR横須賀線 新川崎~横浜間
(写真3) 横須賀線E217系〈ウィキペディア「」Takasunrise0921 提供〉
大船~久里浜 1889(明治22)年開業。
平成22年3月22日に武蔵小杉駅が開業し、今よりもさらに便利になります。

4. JR京浜東北線 川崎~鶴見間
(写真4) 京浜東北線 E233系〈首都圏Express提供〉
大宮~横浜 1914(大正3)年 元となる「京浜線」開業。
実は京浜東北線というのは愛称(あいしょう)で大宮-東京が「東北本線」、東京-横浜が「東海道本線」、横浜-大船が「根岸線」なのです。

④鶴見川の水質の変化

○水質改善の決め手は「下水道整備」

流域の市街化によって生活雑排水が直接流れ込んだために、鶴見川の水質はかつて著しく悪化していましたが、近年は下水道整備が進み、流域の横浜市・川崎市の下水道整備率はほぼ100%になりました。
水質悪化の最大の原因となる生活雑排水は、下水道管を通って下水処理施設できれいにされてから川に放流しているので、年々鶴見川の水質は良くなっています。

○どうして鶴見川は「ワースト河川」??

では、なぜ国土交通省の全国一級河川の水質現況調査で、鶴見川はワースト2なのでしょうか?
でもこれは、あくまでも1つの目安です。なぜならこの『国土交通省の全国一級河川の水質現況調査』は全国に約14000本ある一級河川のうち、国が管理し、なおかつ水質調査が2か所以上で行われている約160本の川のみが対象となっているので、全国すべての川のランクではないからです。
でも、汚いことに間違いありません。これからは流域にすむ市民が一体となり、鶴見川の水質改善に尽くしていくべきです。

⑤鶴見川最大のテーマ『治水』

鶴見川には後でふれるように鶴見川は明治時代にも頻繁に洪水を起こしていました。
そんな鶴見川に必要なのが『治水』。

○堤防のかさ上げ

中流域の市街化が進んだ昭和40年代~50年代には、堤防を大きくするかさ上げの工事が盛んに行われていました。また、現代でも高さが不足する事態が起こっていて、新たなかさ上げ工事が行われているのです。

○浚渫(しゅんせつ)

より多くの水を安全に流せるようにするため、川底をさらって低くし、川の断面積を大きくすることを『浚渫(しゅんせつ)』といいます。鶴見川では昭和51年の水害をきっかけに、昭和54年から、下流部でも大規模な浚渫工事が行われましたが、それでもまだ計画上の流量を流すことができないので、現在も工事が進められているのです。

○堤防の浸透対策

昭和40年代~50年代にかけて鶴見川では堤防のかさ上げを行ってきましたが、現在では、水が浸透することで、堤防が壊れる危険性に対処するための工事が進められています。

ちょっと息抜き③
~鶴見川をまたぐ電車たちⅢ~

5. JR鶴見線 国道~鶴見小野間
(写真5) 鶴見線 205系〈首都圏Express 提供〉
本線:鶴見~扇町 1926(大正15)年開業。
本線以外にも海芝浦支線と大川支線があります。京浜工業地帯への通勤客の重要な足として慕(した)われています。

6. 東海道新幹線 品川~新横浜間
(写真6) 東海道新幹線 N700系〈首都圏Express 提供〉
東京~新大阪間 1964(昭和39)年開業。
多くが山陽新幹線に乗り入れるため、「東海道・山陽新幹線」とも呼ばれています。
世界に認められた日本が誇る快適な乗り物です。

⑥鶴見川の環境対策

水辺には鶴見川流域にしか生息していない昆虫や、自然にふれあえる施設や拠点もできていて、ウォーキングやサイクリングもさかんで、鶴見川は色々な面で人気急上昇中です。

○水辺のふれあい拠点
鶴見川や支流では市民が自然とふれ合える拠点の整備が進められています。

●市ヶ尾水辺の広場

(写真7) 市が尾水辺の広場〈京浜河川事務所関東地方整備局HPより〉
市ヶ尾高校の脇に整備された親水護岸。階段護岸で水辺に近づけるように整備され、水辺の生物調査・清掃活動・水辺体験活動などが行われています。

●バリケン島

東急東横線綱島駅の近くにある「バリケン島」。
かつてここにバリケンという鳥が住んでいたことが名前の由来です。

●河口干潟

鶴見川の河口近く、生麦に位置する。
築堤工事のときに保全され、誰でも入ることができます。
少し、川からの臭いが気になるかもしれません。

●魚道

矢上川には、有馬川(両河川とも鶴見川の支流)の合流地点に大きな落差があって、魚が川を上れない状態でした。これを改善すべく魚道を整備すると、上流でオイカワやアユが見られるようになりました。

(写真9) 魚道施工前と施工後〈横浜川崎治水事務所川崎治水センターHPより〉

(写真10) 魚道〈横浜川崎治水事務所川崎治水センターHPより〉

ちょっと息抜き④
~鶴見川をまたぐ電車たちⅣ~

7. 東急東横線 綱島~大倉山間
(写真11) 東急東横線 5050系〈首都圏Express 提供〉
渋谷~横浜間 1926(大正15)年 元となる東京横浜電鉄の路線が開業。
目黒駅から東京メトロ日比谷線北千住駅までと横浜駅から横浜高速鉄道みなとみらい(21)線 元町・中華街駅まで直通運転。
東京都心から横浜へ観光に便利な「東横特急」を運転しています。

8. 東急田園都市線 市が尾~藤が丘間
(写真12) 東急田園都市線 5000系〈東急電車ステーション 提供〉
渋谷~中央林間間 1927(昭和2)」年 元となる玉川電気鉄道(玉電)が開業。
東京メトロ半蔵門線・東武伊勢崎線久喜駅と同線経由東武日光線南栗橋駅まで直通運転。
朝の通勤ラッシュ時の混雑率は大手私鉄の中では2番目に多いですが、東京都心へ出かける時には非常に便利です。

3. 鶴見川の歴史

鶴見川の歴史について、鶴見川流域センターの方にお話を伺いました。

「鶴見川は昔から洪水が多く、特に本流と鳥山川の合流するところ、つまり現在の鶴見川多目的遊水地の辺りが昔から多くの被害を受けていました。
理由としては、鶴見川は元々川幅もそれほど広くない割にぐねぐねと曲がりくねっていたからです。現在は様々な工事が進められ、出来るだけ真っ直ぐにしたり、川の流れ(浸食作用)によって削られてもろくなった部分を工事を進めて、きれいに丈夫にされているのです。
しかしながら、昔は現在のような工事は技術的に不可能であったため多くの洪水被害に悩まされていました。

そこで生まれたのが、「分水路計画」でした。当時、川が約90度に曲がっている所では特に被害が集中していました。なぜそういうことになるのかと言いますと、それは、雨が降って水が川に流れ込むと川には普段よりも多くの水が流れます。水の流れは量が多くなると真っ直ぐに進もうとする力が増えるので、その勢いで約90度の地点に突入すると水が曲がりきれずに氾濫を起こしてしまうのです。分かりやすく言うと、高速道路の急カーブに車が高速で突入して事故を起こしてしまうようなものです。
そこで、被害の多い地域より手前から海へ分水路を造って被害を減らそうとしました。
当時から鶴見川の水は周辺の人々に生活のために利用されてきましたが、一方で厄介(やっかい)ものでもありました。分水路が通る予定の近くに住んでいる人々はこの計画を聞くと、「自分は洪水被害にあいたくない」といって大反対されてしまいました。
費用も不足していたため、「幻の分水路計画」といわれるようになったんです。

鶴見がまだ村だった頃にも堤防を高くして洪水を防ごうという試みがなされました。
その頃、川を挟んだ村同士の仲が悪かったようなんです。その訳は、片側だけで堤防を高くするとそこで氾濫するときにもう片方の方にすべての被害が行ってしまいます。被害を多く受ける村がたまったものではないので、「俺らの村が先だ!」「いや、俺らの村だ!」と言う具合に喧嘩になってしまい、仲が悪かったみたいなんです。
堤防を両方一緒に造るほどの費用がまたも不足し、工事がなかなか進まなかったようなんです。

その頃、流域に住む人々は何をして暮らしていたのかご存知ですか?
実は、桃を作っていたのです。西洋の桃を日本でも作れるように品種改良した方が綱島に住んでいて、その方が自分の土地で桃の栽培を始めたところ周りの農家に広まり、一時期は「東の神奈川、西の岡山」といわれるほどたくさん出荷されていました。しかし、多くの洪水被害により桃の木にも病気が流行ったり、戦争が始まり政府に食料になりやすい米やいもを作るように命じられたこともあり、だんだんと衰(おとろ)えていってしまいました。
現在はその子孫の方が以前ほどではないですが栽培しています。人気があるのですぐに売り切れてしまうそうです。」

ちょっと息抜き⑤《最終回》
~鶴見川をまたぐ電車たちⅴ~

9. 横浜市営地下鉄グリーンライン 川和町~中山間
(写真13) 横浜市営地下鉄グリーンライン 10000系〈首都圏Express 提供〉
中山~日吉間 2008(平成20)年開業。
現在、東急田園都市線へ流れている港北ニュータウンの通勤客が日吉経由で東横線へ流れる効果が期待されています。

10. 小田急小田原線 鶴川~玉川学園前間
(写真14) 小田急線 4000形〈首都圏Express 提供〉
新宿~小田原間 1927(昭和2)年開業。
混雑率は大手私鉄で東急田園都市線に次いで3番目に高くなっています。
小田原・箱根方面へ出かけるときはロマンスカーで快適に行くことができます。

4. 鶴見川水マスタープラン(水マス)

流域に降った雨が、最後にはひとつの流れ(川)となり海までたどり着くと今度は雲となり、また流域に雨となって降り注ぎます。この水のサイクルを「水循環」(みずじゅんかん)といいます。「健全(けんぜん)な水循環系」が重要になります。
そのために、

①洪水に強い流域づくり
②昔のようなきれいで豊かな川の流れを取り戻す
③大切な自然を守り未来に残す
④いざというときのための準備
⑤流域・川・水とのふれあいの場づくり

これを進めていくのが水マスなのです。

5. 参考文献

なお、図表等はそれぞれの文献の著作者の許可を得て掲載しています

・「鶴見川流域誌CD-ROM版」 国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所
・「バクさんが案内する 鶴見川流域BOOK」 鶴見川流域水協議会
・「鶴見川水マスタープラン 水マス」
国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所 流域調整課
国土交通省関東地方整備局河川部 (http://www.ktr.mlit.go.jp/kyoku/river/00tkindx.htm)
・ウィキペディア

鉄道写真提供:
・首都圏Express: http://www.02.246.ne.jp/~sugi2002/
・東急電車ステーション: http://www7a.biglobe.ne.jp/~tokyu_s/index.html

画像提供:
・京浜河川事務所:
http://www.ktr.mlit.go.jp/keihin/tsurumi/index.htm
・横浜川崎治水事務所川崎治水センター:
http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/07/1911/kawasui/kawasui-index.html

6. もっと鶴見川について知りたい方へ

私も3回通いました!
鶴見川流域センター
優しいお兄さん、お姉さんが鶴見川について詳しく教えてくれます。

〒222-0036 神奈川県横浜市港北区小机町2081
(京浜河川事務所遊水地管理センター1F・2F)
Tel: 045-475-1998
Fax: 045-475-1999

開館時間:午前10時~午後5時
休館日:毎週火曜日及び年末年始(12月29日~1月3日)
その他館内設備点検日等(不定期)

入場料:無料
ホームページ http://www.tsurumi365.info/center/index.htm

7. 皆さんに伝えたいこと

まず、「川に物を捨てないで!」ということ。これは常識です。「誰も見てないからいいや」は絶対にダメです。捨てないだけでなく、落ちているゴミも拾って下さい。

そしてもう一つは、「川についてもっと興味を持って知って欲しい」ということです。川について何も知らなければ、守れるものも守れません。

以上の2つをみんなで実行すれば、未来が変わります。

(取材と記事: 黒山 幹太)

アーカイブ
管理