横浜でつづきジュニア記者に在籍し、現在ボストンに暮らしている草郷さんからのボストンレポートをお届けします!
(ジェームス・ボートンさんと)
私は、4月1日と2日にボストンシンフォニーオーケストラ(BSO)の、戦争レクイエムという公演で共演する機会を得ました。
イギリスの作曲家ベンジャミン・ブリテンが作曲した管弦楽付き合唱曲です。
この公演は、BSOにとっては、リモート配信しか出来なかったコロナ禍からの、ホールにお客様を迎える復活コンサートでもありました。
その公演に出るためのオーディションがあり、私はハッピーバースデーソングの歌の動画を撮って投稿し、そのオーディションに合格することができました。本番前の約一ヶ月前から練習が始まり、練習の期間中、ジェームス・ボートンさんという方が、ていねいに繊細な部分までご指導して下さいました。
ジェームス・ボートンさんはイギリスの指揮者であり作曲家で、現在はボストン・シンフォニー・オーケストラで合唱団の指揮者です。今回は、様々な音楽活動をしているボートンさんが私のインタビューに応じてくださいました。
ボートンさんは9歳のときにRachmaninoff’s 2nd piano concerto を聞いて、音楽に恋をしたそうです。ビートルズの曲を聴いて音楽に触れながら育ちましたが、ボートンさんにとって史上最高のシンガーはフレディー・マーキュリー(イギリスのロックバンドでクイーンのボーカリスト、またはソロ歌手)だそうです。ボートンさんは、「彼の声はとても素晴らしい!」と言っていました。
また、ボートンさんはボストン・シンフォニー・オーケストラを心から愛していて、クラシック音楽のアコースティック(電気を使用しない楽器、ピアノやフォーク・ギターなど)は世界で最高のひとつ!とおっしゃっていました。
さらに、ご自身が音楽に関わる影響について自分自身をどう考えていますか?という質問に対して、ボートンさんは、自分が判断し説明できるものではないと仰っていました。しかし「The lost words」という、失われていく自然や教育についての作品を指導したときに、そのストーリーの中で子ども達はどんどん変化していき、その経験はボートンさんにとって印象に残るできごとの一つだったと語ってくれました。
さらに、ボートンさんは、2017年に日本でコンサートあったときに来日されていました。そのときに一緒に音楽を作った仲間達が大好きで、「彼らはとても一生懸命働いてくれた!コンサートをまとめるのにほんの数日しかなかったけれど、お互いのことをよく知り、自分のことを彼らはすごく歓迎してくれてとてもうれしかった!それは私の中でお気に入りの音楽体験で、またその日にまた戻れたらな、、、」と答えてくれました。私はその当時、公演があったことを知らなかったので、そのとき知っていれば行けていたのに!と悔しくて時間を戻せたらなと思いました。
ここからは個人的に気になっていた指揮者のときとパフォーマンスするときの違いについて聞いてみました。
ボートンさんは、「指揮者と歌う人には音楽を作ることに対して特に大きな違いはありません」とのことでした。
ただ、「指揮者は演奏する前にすでに音楽を準備しておいて、そしてたとえば、テンポとアンサンブルが綺麗になるように自分が指揮をすることで、合唱団と一緒に体を使って音楽を表現するのです」と答えて下さいました。そして、「基本的に、大人の合唱者と子どもの合唱者に対しての指導の違いはありません。ただ、若い合唱者の場合、必要なスキルを教える忍耐力が必要になる」とおっしゃっていました。
若い合唱者の場合、大人やプロよりも歌やステージの経験が少ないので、スキルがまだ充実ではありません。ボートンさんは教えることを楽しんでいて、たとえ若い人、子どもであってもベストを尽くしたいと思っています。なぜなら、人はリスペクトされて、個々に自信がついたときにスキルが上がるからだそうです。
ボートンさんは、指導する中で、歌うときに必要な意識として「50/50 」とおっしゃっていました。
50%は歌うこと、もう50%は聞くこと。大きな声で歌うことも大事ですが、聞くことで周りにいる上手な歌手から学ぶことが出来ます。経験の浅い歌手は歌いすぎて周りの人の声が聞こえていません。しかし、作品として音楽を作るには、大きな声で歌うことはとても重要です。そして合唱者の中には自信がない人や恥ずかしがり屋過ぎる人がいますが、そのような人達は作品の全体のメンバーの中で消えてしまいます。だから歌うときは、グループの中で信頼関係をみんなで築き上げながら、音を聞くことを意識してくださいとおっしゃっていました。
私にとってこの体験は色んな意味でとても特別なものになりました。なぜなら、世界中の多くの人が知っている交響楽団と共に、音楽を作るという体験は私にとって初めてのことだったからです。練習中の雰囲気だったり、出演者以外は入れないような場所に仲間達と一緒に入ったり、私の中で連帯感が生まれたような気がしました。
練習日初日に胸が躍るようなことがありました。たまたま隣の席になった子が、他の子とは違う上品な高貴なオーラを放っていて、私はつい凝視をしてしまいました。練習が始まって声出しが始まったとき、私は驚嘆しました。なぜなら、どんなに複雑なリズムで音が狂いそうになっても、その子だけは、きっちりリズムと音をはめていて、人一倍声量が強く、とても力強かったからです。
残念なことに、私にとって言語の壁は分厚く、皆が和気藹々している間、私は英語が分からないので話しかけられたときに、答えられなかったりみんなの輪の中に入れなかったりしました。指導中も分からないこともたくさんありましたが、一生懸命聞いたり、質問したり、理解するためにいろいろ工夫したのに加えて、とても分かりやすい指導だったので、理解することが出来ました。この体験を未来に活かせたらいいなと思いました。
そしてジェームス・ボートンさんに出会えたことで、貴重なお話を聞けたり、私が知らなかった音楽の世界を知ることができたりして、とても興味深かったです。
最後に、ボートンさんは今回のWar Requiem の公演について「もっとたくさんの人にこの作品のメッセージが届けられたらいいのに」とおっしゃっていました。この作品には、戦争は無益だということや紛争に従ってしまう人々、そしてたくさんの犠牲が生まれるという、様々な平和主義的メッセージが込められています。私にとっても、War Requiem の公演はとても重いものでした。なぜなら、今現在ウクライナで戦争が起きている最中での開催だったからです。
私は、戦争が起きている最中に、強い反戦のメッセージを込めた公演をするという経験は、これから未来には、二度と無ければよいのにと思っています。本番は歌うことに集中していたので考えませんでした。歌うときに重い気持ちになるのは嫌なものだからです。
戦争は絶対に起きてはならないことで、たくさんの人達に、この作品に込められた強いメッセージが伝わればよいと願っています。
取材&記事:草郷緑彩